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2018/11/15 [PR]
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2008/05/22 リレーエッセイ2  空
空    空がなくなって、もう3日になる。この3日間、僕は何か特別なことをしただろうか。朝7時に家を出て、決められた仕事をこなし、決められた会話を交わし、8時に家へ帰る。夕食と翌朝の朝食
2008/05/20 リレーエッセイ1 石鹸
石鹸    遠くで運動会の練習をする、小学生だろうか、の声がしている。そういえば最近では6月に運動会をこなしてしまう学校も増えているのを耳にする。季節はずれの台風が去ったあとの晴れで、街

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リレーエッセイ2  空

 

 空がなくなって、もう3日になる。この3日間、僕は何か特別なことをしただろうか。朝7時に家を出て、決められた仕事をこなし、決められた会話を交わし、8時に家へ帰る。夕食と翌朝の朝食を作り、朝食の分はあまり大きくない冷蔵庫に静かに保存する。最近は、カフカの短編を好んで読む。寝る前に読む本は、と聞かれれば、僕は間違いなくフランツ・カフカを選ぶだろう。死後しばらくたってからようやく日の目を浴びたこの不幸な(つまり、生前の彼にとっては、ということだ)作家の描く、幻想的で不思議な世界は、自分が今現実の世界にいるのかそれとも夢の世界にいるのか、その境界線をあやふやにしてしまう。それでいつのまにか寝てしまうのだ。というわけでカフカを読みながら寝てしまう間、僕は毎朝妻に怒られることになる。なにしろ電灯を消す時間なんてまったくないのだ。気づいたら(寝ている状態を気づくというのもなんだかすごく奇妙だが)寝ているのだ。

 昼食はたいがい外で摂ることにしている。以前は自分で料理したり、妻が作ってくれたりしたこともあったのだが、外出して昼食を摂ることが僕にとって一種の空気抜きのようなものになっている。家と会社、同じ人間関係。それをうまくほぐしてくれるのが唯一この昼食の時間だと言っていい。だから僕は必要に迫られる場合を除いて、同僚と昼食に行くことはない。時間をやりくりするのがいつも骨だが、たいがい、江東区あたりのちょっと離れた、潮の匂いのするレストランで昼食を摂ることにしている。

 空がなくなったことに気がついたのは、昨日の昼食のときだった。いや、体が心持ち軽くなったのは少し感じてはいた。毎日の生活サイクルに慣れると、空なんて見ることはほとんどない。見るのは目が痛くなるような書類ばかりだ。

 ふとしたことで上を見上げたとき、もうそこには僕のよく知っている(本当によく知っていたのかははなはだ疑問に残る)空は、すっかりなくなっていた。なくなっていた、のだ。文字通り。それは突然に、完全に、なくなっていた。

 街の人たちがそれに気づいたのも僕と大体同じような時期だったろう。なんだって、空がなくなったことに気づくまでに2日もかからなきゃならないんだ。天気予報だってもう目にすることはなくなっている。

 今日も、空のなくなった下を、会社に向かって歩いている。今日はどこで昼食を摂ろうか、考えながら。見上げる空はなくなったが、とおり行く人々はそんなことお構いなしといった様子で、下を向いて歩き続けている。

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リレーエッセイ1 石鹸

石鹸

 

 遠くで運動会の練習をする、小学生だろうか、の声がしている。そういえば最近では6月に運動会をこなしてしまう学校も増えているのを耳にする。季節はずれの台風が去ったあとの晴れで、街はいくらか普段よりも明るく見える。

 あてもなく街をさまようのは、あまり得意ではない。なんだかすごく不安定な気持ちになって、それで予定よりもかなり早く家についてしまうことがよくある。だから正直、石鹸の失踪はそんな僕に外出の動機付けをしてくれたという側面も持っている。そうでもしないと家で読書をするか何も考えずにジョギングをするしかやることがないのだ。

 頭の痛いことに、ちょうどこの時期は繁殖期だということをすっかり忘れていた。こんなことならもっとしっかりした、聞き分けのいい石鹸をきりっとした品のいいデパートで購入しておくべきだった。もう長いこと同じものを使用していたせいで、そうした危機管理能力が劣っていたのかもしれない。この辺り一帯はおなじような石鹸を使用する家が多いことさえ忘れていた。

 石鹸を持たない一日はひどく長い。だからあてもなく探し回りでもしなければ退屈でどうにかなってしまいそうになるのだ。もちろん、量販店で真新しい石鹸を買うこともできた。しかしせっかく長く使用していたのだ。グレードだってこのあいだ、Bを取得したばかりだ。それほど大変な努力をした覚えは無いけれど、それでも今手を離すには惜しい気がする。

 そんなわけで、今日も僕はあてもなく街をさまよっている。小学生の運動会の練習も佳境に入った。

 石鹸が失踪して以来、まだ体は洗えていない。



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注 思いつくまま書いているので、意味はありません。